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伊藤忠商事&企業法務革新基盤 タイアップ企画記事 「伊藤忠商事 インハウスローヤーの軌跡~大手法律事務所から伊藤忠商事に移籍し見えた世界とは~」中編

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2022.06.26
伊藤忠商事&企業法務革新基盤 タイアップ企画記事「伊藤忠商事 インハウスローヤー...

伊藤忠商事&企業法務革新基盤 タイアップ企画記事
「伊藤忠商事 インハウスローヤーの軌跡~大手法律事務所から伊藤忠商事に移籍し見えた世界とは~」中編

登壇者紹介
・伊藤忠商事株式会社 弁護士 梅田 将吾
略歴 新63期司法修習修了。修了後、大手法律事務所に入所。ジェネラルコーポレート・ファイナンス・M&Aなど弁護士として多岐に渡る経験を積む。
2017年5月に伊藤忠商事法務部に入社。繊維、住生活、情報、金融ビジネス領域担当を経て、現在は食料ビジネス領域におけるリーガル業務に従事。その他にベンチャー企業に対する投資案件等、幅広い企業法務業務に関与。

・企業法務革新基盤株式会社 代表取締役CEO 野村 慧
略歴 2019年2月より現職。瀧本哲史京都大学客員准教授と共同で現職を創業。著名な企業法務系法律事務所及び法務部への弁護士や法務人材のエージェント業務と組織コンサルティング業務を手掛ける。

※本記事は大変好評であった2020年のセミナーを再構成したものです。

前編に続いて中編を掲載いたします。


働き始めて見えた グローバルな戦略法務

(野村)梅田さんは、法務部でどのような仕事をされているのでしょうか。

(梅田)総合商社は、「1事業部1社」と呼ばれるほど仕事に規模と幅の大きさがあります。伊藤忠の場合はカンパニー制を採用しており、8カンパニーがあります。それぞれのカンパニーは一つの上場会社といえる規模があり、カンパニーごとに社員のカラーも異なるほどです。同じカンパニーの中でも全く違うことをしていることもあります。例えば、私が担当していた住生活カンパニーでは大きく分けてマンション・不動産の仕事とゴムやパルプなどの生活資材の仕事があり、ビジネスモデルが全く異なります。
 営業は1つのカンパニーに基本従事していく形ですが、法務部員は法務部内で2年から3年ごとに異なるカンパニーを担当することになります。新卒で入社した場合には、将来的に8つのカンパニー全てを経験することになると思います。

(野村)それでは、具体的に梅田さんが働き始めて見えてきた世界について伺っていきたいと思います。梅田さんは17年から19年まで情報金融カンパニーにいらっしゃったということで、最初に担当された大きい案件として、スタートアップのディールがあったと伺っております。商社がITや金融の仕事をしているのは少し意外な気もしますね。

(梅田)総合商社でITと金融のスタートアップに注力しているのは珍しいと思います。金融だとフィンテック、情報だとスマホなどのITですが、どちらも新陳代謝が激しいのでスタートアップへの投資が多いです。投資のやり方としては二つあり、一つはベンチャーキャピタルが多くやっているように、経営にはタッチせずにキャピタルゲインを狙うような投資、もう一つは20~30%ほど資本を入れて、経営に携わる投資です。後者ではマーケットでビジネスを取りに行くイメージで、伊藤忠とスタートアップそれぞれの強みを活用してシナジーを追求していきます。いずれのやり方も経験することができます。

(野村)投資していくだけではなくて、その会社がやっているマーケット全体を取りにいく手法ですね。投資先でいうと、ユニコーン企業の案件もあるのでしょうか。

(梅田)海外ユニコーン企業の案件があります。米国のベンチャーキャピタルファンドに投資するなどです。日本でも同じようにファンドに投資することもあります。
なお、ベンチャー投資案件で株式を取得する場合、基本的には法律事務所に外注するのではなく法務部だけで担当します。レビューする契約書としてはSPA(株式譲渡契約書)が基本ですが、ものによってはSHA(株主間契約)も締結します。

(野村)ご覧になっている皆さんは会社法を勉強されたかと思いますので、会社法における株式の保有割合は重要だとお分かりかと思います。例えば、拒否権の関係で3分の1を超える割合で保有できないとなった場合、投資先との関係で縛りにいくということが必要になると思うのですが、この場合どのように対応していくのでしょうか。

(梅田)それはSHAです。先程、20%〜30%の投資で経営に関与する、ということを申しました。過半数を取らないと経営できないのではないか?と思われる方もいるかもしれませんが、確かに会社法だけでは困難です。そこでSHAを締結し、拒否権を取得します。一定の重要事項の決定には我々の承諾が必要です、といったものです。他には、SHAで取締役の選任権を得て、経営に関与することもあります。例えば、取締役5人のうち1人〜2人を派遣するなどです。

(野村)そうすると、少数株主で経営権を支配しているということになり、実質合併したり子会社化したりすることと同じだと思われるのではないですか。

(梅田)会計マターと独占禁止法マターがあります。例えば、会計マターとしてはこのSHAだと子会社として認定されないですか?ということを公認会計士に確認します。その認定は法務部としても注意しなければなりません。また、独占禁止法において、実質的に経営権を保有しているとして伊藤忠商事と投資先の会社が結合していると判断されると届出をしなければいけないこともあります。この届出は日本だけでなく、グローバルで問題になることがあります。例えば、中国は独占禁止法が厳しいです。パートナー企業がどれだけ中国の売り上げがあるかによりますが、伊藤忠は中国で一定規模の売り上げがあるので、中国で独占禁止法の届出をしなければならないこともあります。

(野村)出資をするときには、投資部隊が頑張るだけでなく、リーガルで組織設計をしなければならないことになるわけですね。

(梅田)独占禁止法に詳しい営業はあまりいません。案件をクローズする前に届出をしなければならないのですが、中国では届出に3ヶ月かかることもよくあります。一方、営業にはできるだけ早く案件をクローズしたいという思いがあります。そのため、我々は早い段階から「届出が必要になるので、スケジュールに猶予を設けてください」とアドバイスをするようにしています。

(野村)営業の人は独占禁止法に抵触するだろうという案件に毎日遭遇するわけではないですからね。

(梅田)我々は日常的にあります。担当として届出をすることは年間1回程度です。ただ届出がいるのか、あるいはいらないのかという検討自体は非常に多くあります。

(野村)先程フィンテックやITの話が出ましたが、伊藤忠商事ではどのようなことをしているのでしょうか。外から何をやっているのかわからないことが多く、国内ではあまり聞かないですよね。

(梅田)例えば、給与の前払いサービスをしています。給与は25日まで待たないと貰えないですが、社員からは、いますぐ給与がほしいというニーズもあります。そこで給与の前払いアプリを作り、企業に提供しています。社員はアプリのボタンを押すだけで給与の前借りができます。消費者金融に借りに行く必要がなくなるわけです。
 ここで労働法上問題があります。労働基準法では、給与は直接会社から従業員に払わなければならないとされています。我々サービス提供会社が従業員に払うことができないのでどうしようかということを考えます。他にも金融事業になるので、貸金業法や金融商品取引法でどのようなライセンスがいるのかについて弁護士を起用し、金融庁と折衝して検討しました。

(野村)フィンテックベンチャーがCLO(最高法務責任者)を置いて業務をやるのと一緒ですね。

(梅田)現在、給与前払いは伊藤忠の子会社がやっていますが、もともと金融カンパニーでやっている事業を社員ごと移しました。これに伴い様々な契約書を締結する必要があります。収益がまだ立っていない時期でしたので、全てを法律事務所に外注するわけにはいきませんでした。そこで、基本的なところは法務部で行い、法律事務所への外注はポイントを絞って行いました。今ではサービスがローンチされて、お客さんがいる状態です。

(野村)お仕事の内容を引き続き伺いたいのですが、繊維カンパニーではどのようなことをされているのでしょうか。

(梅田)繊維カンパニーでは、大きく分けてメーカーとして服を作る仕事と、ブランドを展開する仕事をしています。服を作る仕事ではアパレル企業から製造を受注し、我々が国内外の工場に発注して作ってもらいます。ブランドの展開では、ハイブランドからカジュアルブランドまで、我々がブランドを自らオーナーとして保有し、あるいは他のブランドオーナーからライセンスを受けることで、ライセンスビジネスを行います。国内で自らブランドを展開するだけでなく、他のアパレル企業にサブライセンスをすることもあります。

(野村)ブランド展開の事業だと、ラグジュアリーブランドとカジュアルブランドで違ってくるのでしょうか。

(梅田)カジュアルブランドの方が我々の方に裁量があります。ラグジュアリーブランドは世界的に統一した基準があり、日本独自のものを認めたがらない傾向にあります。カジュアルブランドであると、日本国内での裁量が大きく取れてニーズに合わせた商品を作れることがあります。

(野村)かつて商社は商材を右から左に流して中抜きするだけのビジネスだ、と言われたこともありましたが、実はもっと複雑で、繊維ビジネス一つとっても、メーカー機能がありながらブランド機能も持ち、それらを資本とリーガルの技法を使いながら事業化していることを知っていただきたいですね。

(梅田)ブランドビジネスは先人たちが作り上げた新しいビジネスモデルです。商材を右から左に流すだけでは、長く取引をしていると仲立ちしている我々を除いて取引するようになります。そのため、付加価値を提供できる新しいことをやる必要があります。
そういったマインドが伊藤忠には存在していると思います。


(後編)は6月28日に公開予定です。

今後の採用活動について(令和4年司法試験受験者対象)
・次回のタイアップ企画(第二回セミナー)について
第二回セミナー(ライブ配信)は7月下旬に開催予定です。詳細は企業法務革新基盤のHP及びTwitterにて告知いたしますのでご確認ください。
本セミナーは伊藤忠商事選考に参加する上で非常に示唆深い内容を多々含むため、応募を検討されている方は是非ご参加ください。

・採用スケジュールについて
9月6日にエントリー受付を開始し、9月中旬より選考開始予定です。
詳細については、今後伊藤忠商事採用HPに掲載いたしますのでご確認ください。