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IPBL AWARD2020 L-STAR(女性弁護士部門) 阿部・井窪・片山法律事務所 2/2

REPORTS 2020.11.10

前編はこちらからご覧ください。

https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/11/ipbl_award2020_l-star_12/

休職中から復職にかけての事務所の対応

萩原 「細かい話になってしまいますが、休職中の報酬や業務についてどのようになされているのでしょうか。」

中村先生 「産休中6か月は給与が支給されますね。」

野村 「それがない、というところもあるんですよね。例えば3年目のアソシエイトが出産を考えたときに、出産する時に休業手当もないので、その前に高い報酬をもらったとしても生活できない、と悩んでいることもあります。」

中村先生 「自分の経験からしても、収入があった状態から6か月無収入になったとしたら生活は厳しいだろうと感じます。出産するにあたって色々と出費もある中で、給与をもらえたことはありがたかったです。給与をもらえる事で事務所に戻ろうというモチベーションにもなりますしね。」

片山先生 「うちは留学中にも費用を出しているんです。まさに家族ですよね。留学にはいろいろとお金がかかるので、基本年収を出すということになっています。悪くないでしょう?」

野村 「素晴らしいですね。ただ、短いスパンで取り分を考えると、働いていない人に何故お金を出しているのか、自分の収入を増やしてくれという不満はないのでしょうか。」

片山先生 「綿々と続いているので、そのような発想はないですね。そうはいっても事務所全体の売り上げが下がったらいろいろ議論になる可能性もありますが、皆の頑張りで何とかなっています。」

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野村 「復職の際の配慮などはあるのでしょうか?」

江幡先生 「ただでさえ子供を育てるのは重労働ですので、負担が集中しないようにはしています。男女関係なく、子育てをしながら仕事をすることの大変さを良くわかっているので、仕事で声をかける時に、大丈夫かどうか聞くことはあります。ただ、先ほど話したように、お母さん枠があるわけではないので特別扱いしているわけではなく、普通のこととしてやっています。アソシエイト全体にも負担が過重にならないようにしていて、それと同じ配慮だと思っています。」

女性弁護士とプラクティス

萩原 「プラクティスエリアに関してはいかがでしょうか?」

片山先生 「我々の事務所は、総合的に企業法務を扱っていますが、特に重点を置いている分野として知財と倒産があります。倒産は切った張ったの世界ですが、女性が倒産案件に関与しないかというと、そんなことは全然ありません。女性でもその分野をやりたいという人はいて、実際にやっています。若手の女性弁護士で倒産をやりたいと言って事務所に入所した者もいます。上坂先生もやっていますよね。」

野村 「知財に女性を寄せているという仮説を持っていました。比率的には、女性のプラクティスは知財・IPが多いということはないのですね。」

片山先生「本人のやりたい方向性次第です。」

日野先生 「あなたは知財だから、事業再生だから、ということはなく、やりたいことをやって良い風土です。女性だから知財ということは全くありません。」

野村 「女性弁護士が多い事で感じるプラクティスのメリット、クライアントからの視点の変化などはございますか。」

日野先生 「私は知財を専門にしていますが、特に感じる事はないですね。ただ、事務所は働きやすいです。働きやすいからアイデアが出る、仕事に集中できる。女性だからこう見られているだとか、逆に期待されていないとか、お客さんにどうかとか、意識せずに自分の能力を発揮して出来ることをできるというのは幸せなことだと思います。」

中村先生 「クライアントが、女性だから私に依頼しているという事はまったく感じないです。所内でも、全く意識しないです。」

野村 「素晴らしいですね。」

日野先生 「むしろチーム編成をするときに、女性のみのチームになった場合は、バランス的にどうなのか?と一瞬考えますね。」

江幡先生 「他方で、外国のクライアントの場合、事務所選択に際してダイバーシティの観点が意識されるようになってきていると感じますね。女性が多いことで決めるわけではないですが、プラスになる面はありますね。」

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事務所としての設計思想

野村 「これまで女性の活躍という切り口からお話を伺ってきましたが、貴所のように真に女性が活躍できる場所は、仕事中に性別を意識することがない、ということが重要な特徴なのかもしれないと感じています。貴所の先生方には互いに深い信頼があり、男女関係なく互いに期待して、それに応える好循環が生まれている。信頼のない組織に期待は生まれない。これは組織における類い稀な財産だと思うわけです。

そういった期待の一つとして、片山先生の、貴所の弁護士に対する「『ひとかど』の弁護士になってほしい」というメッセージが印象的でしたが、『ひとかど』とはどのような弁護士なのでしょうか。」

片山先生 「『ひとかど』の弁護士を目指せというのは、阿部の言葉で、お客さんから信頼されて自分に頼まれる、という姿を目指してほしいということです。」

江幡先生 「ですから、若い人が案件を持って来られるようになるといいという発想がありますね。個人事件をアソシエイトの頃から自由にとっていいことになっていて、アソシエイトで顧問先があることもあります。上から言われた仕事だけをするというよりも、自分が信頼されることの醍醐味を体感することで、それがパートナーへの道にそのまま繋がっていくという考え方がありますね。」

野村 「では、個人案件の売り上げはパートナーの方々は知らないんですね。」

片山先生 「知らないです。だからすごくgenerousですよね。」

上坂先生 「アソシエイトが個人事件の売り上げを申告する必要はありませんが、所内の全員で毎月携わっている案件の内容や進捗、注力している案件等をレポートで報告・回覧しています。自分も最近初めて顧問先が出来ました(一同拍手)

事務所案件でお客様に対応する中で、所内で指導を受けられたからこそ、個人事件にその経験を生かし、自分1人の案件でも責任感を持ってお客様に信頼していただけるように対応するよう努めることができるのだと感じます。また、そのように事務所から指導してもらった恩を感じていますし、個人案件を自由にさせてもらえる分、その経験を事務所案件に生かして、事務所に恩返し・還元をしようという気持ちになります。」

片山先生 「事務所ではほとんどの案件でチームで対応するのですが、それだけでは若手の先生が自分で判断するチャンスが少なくなってしまいます。一方で、個人で受けたものは後ろがいないので自分で意思決定をすることになります。それを経験したほうが絶対弁護士としてよい。そうやって育ってほしいと考えています。」

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ルーツ:阿部先生の思想とは

野村「なるほど。アソシエイトの時から意思決定を自分で全部するわけですね。経営者は毎日不断の意思決定に迫られていて、その中には会社がつぶれるかもしれないというものもあるわけです。そういったクライアントからすれば、意思決定を知らない弁護士はすぐわかりますし、そこを見ているとも思います。このような事務所設計の思想は草創期から続いているのでしょうか。」

片山先生 「阿部はロングスパンで考えようじゃないか、という人で。一生って結構長いよね、という思想が非常に強いので、あまり短期的な成長や利益を追求することはありませんでした。有難いことに、ある程度の事務所の経済的な基盤を作っておいて、賃料の心配などをしてやりたいことを遠慮することがないような仕組みにしたんです。」

野村 「非常にキーとなる話ですね。阿部先生はどれほどのスパンで考えていたのでしょうか。100年後か、50年後か、自分の代だけか、目先数年間だけか。どれくらいの視野、思考の深さを持たれていた方なのでしょうか。」

片山先生 「阿部がよく言っているのは、自分は苦労した、一から事務所を作った、と。例えば、阿部から言われた事は、『自分は事務所を経営しなければならなかったから、留学したかったけれど難しかった。だけど、君は是非留学にいってらっしゃい。』と、そういう感じなので、回答としては世代なのでしょうかね。私たちは大変良くしてもらったので、次の世代にその伝統は伝えてあげなきゃ、ということでやっているつもりです。」

野村 「基本設計の思想が卓越されていますね。色々な事務所を見てきて、次の世代、次の次の世代を考えて行動する事務所は伸びているという認識があります。そのような発想を感じます。共同創業者の瀧本もまさに投資家であるとともに教育者で、長く人を育てる事が最大の投資だと言っていました。最後にそこに行きついたんですよね。」

片山先生 「阿部と一緒ですね。阿部がよく言っているのは、片山君、いくらお金を稼いでも向こうにもっていけるわけないんだから、と。楽しみは若い人たちが育っていくことだと。教育者の楽しみですよね。」

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編集後記:

以下、阿部・井窪・片山法律事務所ウェブサイトからの引用である。

「阿部・井窪・片山法律事務所は所属メンバー全員が強固な信頼関係で結ばれた法律事務所です。当事務所は、所属メンバー全員がその能力や専門性を高めつつ、お互いが強固な信頼関係によって結ばれた法律事務所であることを誇りに思っております。
私たちは、リーガルサービスの向上のために情報を共有化し、また、日常的に所内研究会、勉強会を実施するなどして互いに協力し合い、日々研鑽に励んでいます。そして、このような日頃の切磋琢磨によって培われた結束力が事務所の実力となって、あらゆる局面でその力量を発揮するものと確信しております。」引用は以上。

言葉一つ一つの深みに感銘を受ける。これほどに実像と理想が一致する組織は稀有といえよう。取材中、まさに先生方一人一人から強く伝わってきたものが、強固な信頼関係で結ばれた法律事務所であることの誇りであった。先生方の話ぶりからは互いへの厚い信頼が伺え、若手の先生の吉報には自然と拍手が巻き起こった。どの事例・論点をとってみても、その背景には事務所全体と弁護士個人の相互の期待、そして個人の困難を皆で解決することが自然な発想として存在することが伺えるのである。

今回は、弁護士数上位50法律事務所における女性弁護士比率第一位の表彰をさせていただいた。なぜ、企業法務系法律事務所のトップランナーである阿部・井窪・片山法律事務所では女性比率が高く、また女性弁護士の離職が発生しないのであろうか。一朝一夕には構築され得ない、世代を越えた重層的な信頼関係と経営思想、そしてそれらと相乗作用する卓越した業務の実力が、阿部・井窪・片山法律事務所の根幹には存在する。

最後に、今回の取材を快くお引き受け下さった阿部・井窪・片山法律事務所 片山英二弁護士、日野真美弁理士・外国法事務弁護士、江幡奈歩弁護士、中村閑弁護士、上坂望弁護士の各先生方に、心より感謝申し上げたい。

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