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「法務人材の転職及び弁護士の転職へのコロナ禍による影響続編Vol.5 日本オラクル株式会社 代表執行役 最高法務責任者 金子忠浩氏のコメント後編」

REPORTS 2020.05.29

前編
https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/05/vol5/
中編
https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/05/vol5_1/

 「法曹「進化論」と言って良ければ、クライアントである我々と法律事務所の関係性も、「淘汰」も含めイノベーティブなものになり、更に、「法曹一元」議論が、司法関係だけでなく企業法務や立法政策側も含めて拡大する様に願っています。」こちらのコメントは非常に示唆的だ。 

 まず、法曹「進化論」という表現が卓越していると思う。法曹の在り方が変わっていく様を進化論に例えているわけだ。そして、クライアントである企業と法律事務所の関係性がこれから変わっていくことを希望されている。厳しい表現を用い「淘汰」を含めたイノベーティブと記載されている。「淘汰」なくして、イノベーティブはないと解することが、サービス提供者にとっては重要だろう。あえてここで、「淘汰」という表現をしているというのは、現在の法律事務所のサービス提供に満足していないことも暗に示していると解される。
 そして、企業と法律事務所の関係がイノベーティブではないということも同時に示唆している。この「淘汰」という言葉も前に記された「進化論」という表現と併せて理解する必要がある。進化論では環境が変化していくに合わせて、適応した種のみが生き延びる。まさに、「環境」に間断なく対応することが求められるわけだ。一方で、適応しない種はどうなるかと言えば、自然淘汰されるだけである。つまり、絶え間なく変化し続ける環境に自己を対応させられなければ自然「淘汰」されることを強く意識し、さらなるサービスの提供の在り方を模索し提案することをクライアントは欲しているということだ。そこにチャンスがある。
 それでは、そのチャンスをどう認識、識別するのか、という問題が出てくるわけだが、当職は営業を再度捉えなおす必要があるように思う。自己都合の営業をしていないかを自問自答するプロセスを通して浮かび上がってくると思うのだ。こういう話をしていると、「次に来るプラクテイスはなんですか」という声が聞こえてきそうであるが、ファウンディングパートナー瀧本が生きていれば、こう答えるのではないかと思う。「そのような質問をする態度こそが、淘汰される確率を上げる」と。
 
 次に、「法曹一元」議論が、司法関係だけでなく企業法務や立法政策側も含めて拡大する様に願っています。」と記載されている。一般に法曹一元論とは、イギリスなど採用されている制度で、裁判官は実務経験豊富な弁護士がなるべきだという主張だ(さまざまな議論があるところであるので、他の定義ももちろんあるが)。日本では、裁判官は、司法修習後、実務経験なく登用されるのがメインのキャリアパスだ。この話をしているとは思えない。文脈的に明らかに違う。

 金子氏がここでいう「法曹一元論」とは、裁判を中心とする旧来の法曹を土台とする話ではなく、企業法務に従事するものが、企業に影響を与える政府の政策立案部門、商事弁護士事務所、商事紛争解決機関、社外取締役候補群、などを含め、行き来をすることと解される。企業法務、政府の政策立案部門、商事弁護士事務所、商事紛争解決機関、社外取締役候補群といった各プレイヤー同士が今よりも盛んに人材交流することや中途採用での参入障壁を下げること、出戻りを許容すること等で、企業法務人材の蛸壺化を防止しつつ、企業法務人材の多様な経験が相互に影響を与え各人に複層的な視点をもたらし、その結果として、実効的で生産的な経営法務を推し進め、ひいては企業法務従事者のマーケットを魅力的かつ幅を広げていくこととなるということ指すと思われる。欧米の真似ではなく、日本独自の企業法務人材のキャリアパスのエコシステムを構築するということを指すものと解される。金子氏は、欧米に追い付き追い越せではなく、日本独自に「ロータリーエンジン」を輩出することが重要だと指摘している。多層的なキャリアを持つ人材を金子氏は経営法務に必要と考えているのだろう。金子氏から未来ある若者へのメッセージとも受け取れる。

 「これまでの企業法務側が多くの場合受け手側になっていた状態も変えて行かなくてはならない」と指摘される。確かに企業法務側が受け手になっているという指摘は、現実の法務の実態を指すものだ。しかし、変えていくことができるし、今後変わっていくことができると信じていらっしゃるわけだ。「法務は構造的に受身なのは仕方ない」と思考停止するのは簡単だ。もちろん、一朝一夕では変わらないが、得てして、思考停止の発想のバイアスの打破にこそチャンスが眠っているものだ。思考停止して固定化するのは、自らを守りたいからか、諦めたいからか、何か別の思惑が隠れていることも多いだろう。

 「長年この業界?に育ててもらった身としては、発信機会を増やして、多少とも貢献したく思います。」と最後に述べられている。「発信機会を増やしたい」と最近お会いするとお聞きしていたこともあり、先日中央経済社発行の月刊誌「ビジネス法務」編集部の方から当職に座談会の企画が持ち込まれた際に、金子氏をお誘いした。併せて、本連載二回目に登場いただいた三井物産株式会社の伊藤氏を通して、法務部長高野雄市氏にお声がけをさせていただいた。当職は、お二人の議論がどう発展するか聞いてみたいという個人的欲求があったのだ。日系企業の法務部代表といっても過言ではない高野氏と外資系で代表執行役として経営に従事する金子氏がコラボするとどんな議論になるか、どんなケミストリーになるか見てみたかった。テーマは、大枠、法務人材をいかに活かし、法務組織をいかに活かすか、ということだ。活かすために、いかなる発想が必要であるのか、そして、実装するために必要な視点とはなにか等、非常に高度な議論で、1時間半の収録時間の予定が、30分も超過して2時間の熱い討議となった。内容をこれ以上記載すると怒られそうなので、ご興味ある方は、「ビジネス法務」2020年9月号特集2にて、三井物産株式会社 法務部長高野雄市氏、日本オラクル株式会社 代表執行役最高法務責任者 金子忠浩氏と当職の3名での座談会をご覧いただきたい。7月に出版される予定である。

 金子氏のコメントは短文であったが、密度が高く高度であった。そろそろ朝焼けになりかけているので、ここで筆をおきたい。

第六回は、双日株式会社 執行役員 法務、広報担当本部長 守田達也氏からのコメントです。5月31日に掲載予定となります。ご期待ください。
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