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「大江橋法律事務所インタビュー~女性比率から事務所思想・文化に迫る~ 中編」

REPORTS 2023.02.16

中編では、女性のパートナー昇格における諸課題とそれらに対する大江橋法律事務所の対処を切り口に、大江橋法律事務所のカルチャーに迫ります。(前編はこちらから)

野村:よく語られる話として、女性の先生がパートナーになる上での障壁というものがあるかと思います。同じ十年の勤務でも、ライフイベントで稼働が落ちたり、できなかったりといった時期があり、経験に差がついてしまい、仮にパートナーになったとしても、ビラブルが伸びにくく、クライアント獲得をしにくいケースもあると聞きます。

すると、パートナーに対して男女同じ基準で新規クライアントの獲得、新規プラクティスの確立を求めるのであれば、女性はパートナーに昇格させにくい、という構造に陥ってしまいかねません。この点について、現状の課題感と、貴所はいかに対処しているのか、についてお聞かせ頂けますでしょうか。

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嶋寺先生:先程山本弁護士が申し上げた通り、パートナーになってもノルマがないというのは、女性のパートナー昇格を妨げない要因の一つかと思います。アソシエイトだけでなくパートナーであっても、働き方はそれぞれのライフステージに応じた形があると考えています。

根本的に、弊所ではパートナーの基準として、ビラブルではなく、仕事のクオリティーを一番に考えています。限られた時間の中でも良い仕事をしたり、後輩にとって良い手本となったりしているのであれば、パートナーとして何ら負い目を感じることはありません。

また、弊所は新規のクライアント開拓の意識が強い事務所ではありますが、決して新規クライアントを開拓できていないパートナーの評価を低くするという発想はありません。案件獲得と仕事のクオリティーでは、やはり後者が重要だということです。もちろん前者も重要ですが、そこに絶対の価値を置いてはいません。自分のライフステージに応じてクライアント獲得活動を行うのは歓迎ですが、それが成果として繋がっていなくても現在のクライアントの案件で良い仕事をするのであれば、しっかりと評価される、というのが偽らざる本当の姿かと思います。

野村:今おっしゃった点は、貴所のように売上に応じて報酬が変化するシステムを採用する場合は組織として成り立つと思いますが、女性のパートナーはビラブルが伸びにくいとすると、パートナー間でも報酬に差が顕著に出てくると思います。それに対し、やむを得ず稼働できないような場合にも報酬の差がついてしまうのはいかがなものか、という意見も聞きますが、この点は何を意識して制度設計されていますか。

嶋寺先生:その点については、報酬の最低保障額を一定のレベルで設定することにより生活の維持を可能にすることを基本に考えています。さらにインセンティブについても、オリジネーションに重きをおくだけでなく、既存クライアントへの貢献という部分も比重を高く設定しています。

ただ、おっしゃる通り、働き方に応じたフォロー体制については議論しています。例えば、パートナーに成り立ての頃はビラブルも上がりにくいため、最低保障のレベルを高く設定したり、パートナーの時短制度を用意したり、とパートナーになっても各人の時期や状況に応じた対応をとるようにしています。

各人が自分の置かれた環境でベストを尽くしていれば、それを評価しようという考えがあります。負い目や引け目を感じないで仕事ができるように、個別の事情を聞いてそれぞれに対応しようとする文化が非常に強く、その文化が事務所を支えていると思いますね。

IMG_8070小寺先生 中編使用最終.jpg

小寺先生:やむを得ず稼働できないような場合にも報酬の差がついてしまうのはいかがなものかなどといった不満は所内で聞いたことがありません。そもそも、弊所では、他の人のビラブルや報酬についての議論自体がほとんどないように思います。皆がそれぞれできる範囲で、最大限の力を尽くす、それに対して最低報酬+インセンティブで調整をしていくという仕組みになっており、牧歌的な昔ながらの制度かもしれませんが、女性パートナーからの不満は聞いたことがありません。

私はアソシエイト時代に合計2年程度産休・育休を取りましたが、同期とほぼ同時にパートナーになりました。パートナー昇格における選考においても、ビラブルどうこうというよりは、その人の特性、専門性、仕事のクオリティーなどといった個別の要素を見て、一緒にパートナーとしてやっていけるか、という観点から選んでいると思っています。

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細川先生:仕事の専門性という面では、女性弁護士の方がある意味、一定の分野に専門特化しやすい部分もあります。事務所としてそうするよう特に求めているということではありませんが、産休育休は、留学と同じように、一度立ち止まってこれまで経験した案件を振り返り、今後フォーカスする分野を定める良い機会になると思います。

ある分野に専門特化すると、比較的特色も出しやすく、仮に育休からの復帰後に稼働時間が限られていても、その分野で頼っていただきやすくなります。

野村:産休育休機会を活用して女性のパートナーの先生がポジションを取るという、1つのポジショニング戦略があると理解いたしました。
各弁護士の分野の選択は、どのように決めるのでしょうか。事務所によっては事務所の方で決めることもあり、それが退職理由になるケースも耳にします。

嶋寺先生:この分野をやれと強制されることは全く無いです。事務所全員に聞いても同じことを言うと思います。また、分野を変えるのも自由です。やりたい分野が変わることは人間なら当然あるだろうと考えていますので、元々M&Aをやっていた人が、やっぱり違う分野にシフトしたいということも歓迎です。

弁護士の重要な能力は総合力だと考えていて、全ての分野の経験は繋がるという発想があるので、むしろ違う分野に興味があれば積極的にやってもらうようにしています。

例えば、留学を経験して事務所に戻ってくるタイミングで、今後はこの分野をやっていきたいとか、さきほど細川弁護士が申し上げたような、産休後のキャリアチェンジを打ち出していくことも歓迎です。

勿論、経営的な視点では、これまで経験を積んできた分野のまま進んでほしいという考えはありますが、そうでない選択をした方が予想をはるかに超える成果を生むことがある、ということが経験上あるので、目先の効率性というよりも、本人の意欲・関心に沿った選択のほうが良い将来に繋がるということを期待しています。

小寺先生:やはり個々人の選択が尊重されるカルチャーを魅力に感じて入所する方が多いですね。女性の働き方についても、私の所属する大阪事務所では、私より上の期の女性弁護士が8名おり、全員お子さんがいらっしゃるのですが、育児中の働き方のスタイルは本当にさまざまです。そういった上の世代の姿を見ると、自分にフィットする働き方ができる、そしてその選択が尊重される事務所だと感じます。また、心地よく働き続けられるのは、こういった事務所のカルチャーに要因があるのかなと思っています。

野村:キャピタリズムに飲み込まれていないのですね。最初の方でも、嶋寺先生は「大江橋はお金を稼ぐことを最重要視している人は少ない」とおっしゃっていましたが、そういった世界観を実現し続けるには、ある意味で思想が必要になってくると思います。その思想を浸透させていくのは難しいと感じていますが、どのような形で浸透させることができているのでしょうか。

嶋寺先生:こういった雰囲気は長い歴史の中で育まれたもので、個別に何が影響したかは特定しにくいですが、個々人の活躍を全員でサポートする姿勢というのは一因だと思います。個々人が活き活きと仕事をして活躍することを、事務所として期待し、支援しています。

例えば、本を書いて出版した人がいれば皆で祝福しますし、ある分野で自身のプラクティスを確立しようとする人がいれば彼女をスターにしていくためにどんどん案件を集めていこう、と動くのです。事務所で誰か一人がスターになるのではなく、事務所全体で個々人をサポートして、いろんな人を目立たせるようにするという考えは、皆が共通して持っていると思います。その結果、各人がやりがいを感じますし、自身がそうやって成長できたので後輩にも同様の経験をさせてあげたいと思っています。そういう循環が、今までこの雰囲気を維持できた理由の一つだと感じます。

IMG_8037 山本先生 中編使用最終.jpg

山本先生:あとはネガティブな意味ではなく、おせっかいですね。例えば、留学制度一つとっても、今は結構留学に行かせる人を絞っている事務所が多いと感じています。自分が所属していた外資系法律事務所であれば、そもそも日本の弁護士が留学してニューヨーク州の弁護士資格を取っても意味がない、という考えで事務所が費用を出して留学に行かせることには消極的だと思いますが、弊所であれば、あまり行く気がなかった人に対してもおせっかいなくらいに留学の意義や魅力について話をして、ぜひ行きなさいとお尻を叩く。そこは経済合理性の話ではなく、留学を経験した者として、自分の仕事だけではなく人生においても色々得るものがあったから、ぜひそれを経験してほしいという想いがあるのだと思います。

野村:大阪と東京という二つのエリアを比べたとき、クライアント層の違い等の影響で、カルチャーに違いが生じることはあるのでしょうか。

嶋寺先生:確かに大阪と東京でマーケットの違いはありますが、私が両方を見る限り、カルチャーは非常に似ていると感じます。
アソシエイトの話を聞いても、同期と案件獲得においてライバル関係になるという感覚は無いようです。同期は切磋琢磨し合う関係であり、むしろ我々が競う相手は外の事務所の同期やその分野で活躍する先生方だという認識があります。そのため、足を引っ張り合うことは全くなく、それよりも良い経験を積んで成長していこうと考えている人が多いです。先ほどパートナー選考の話がありましたが、同期でパートナーになれる人数に制限がないことも一因かもしれません。

野村:この規模で制限がないのは驚きです。

嶋寺先生:本当にないのです。ですから、同期が多いと事務所に残れないと考えている人はまずいません。むしろ、自分が適当な年次になった時にパートナーに相応しい能力を備えるよう経験を積むことに意識を向けています。

山本先生:そもそも誰かを蹴落とせば自分が上がれるといった環境でもないですし、同期間で比較したり競争したりといった雰囲気は皆無です。同期間では日々助け合っているのが実情です。例えば、弊所では多様な案件を経験するので、特に若い年次においては、どうしても新しい分野の経験が多くなります。そういうときには、時期的に早く経験を積んだ同期にポイントを予め聞いてキャッチアップをしており、非常に効率的に成長出来ています。このような助け合う土壌で育っているので、例えば自分が子育て中に、この人に迷惑をかけているかもといった意識はないですし、自分が休むと特定の誰かに迷惑が掛かるような固定的かつ縦割りの働き方ではありません。

大江橋法律事務所インタビュー~女性比率から事務所思想・文化に迫る~ 後編」に続きます。後編は2/24夕刻に公開予定です。

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