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「ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)インタビュー~グローバル・ロー・ファームは如何にID&Eに取り組むか~ 前編」

REPORTS 2023.04.07

既報の通り、弊社では2022427日時点での一定規模以上の法律事務所における7374期の弁護士の女性比率ランキングを調査し、ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)46.2%で第一位となりました(ランキングの詳細はこちらの記事をご覧ください)。 
ベーカー&マッケンジー法律事務所の70期以降の女性比率は、各期で40%を超える数字を示しております。この規模帯の企業法務系法律事務所としては異例の数字と言えましょう。

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ベーカー&マッケンジー法律事務所は、ID&E(インクルージョン、ダイバーシティー&エクイティ)の数値目標を設定するだけでなく、その進捗を公表する積極的な施策を実施しております。まさに経営としての責任の表れと言えましょう。「多様性は文化の根幹をなす価値観」と表明するベーカー&マッケンジー法律事務所がID&Eを如何に捉え、並行して如何なるダイナミズムが所内に生まれているのか。このたび下記の方々にインタビューをさせていただきました(インタビュアーは弊社代表野村慧)。

・高田昭英弁護士:東京事務所共同代表パートナー、グローバルIDE委員会メンバー、東京事務所ID&E 委員会共同代表。
・細川昭子弁護士:東京事務所パートナー、東京事務所IDE委員会共同代表。
・井田美穂子弁護士:東京事務所パートナー。
・小林正佳弁護士:東京事務所アソシエイト。
・中村真理子様:IDE アシスタントマネージャー(アジアパシフィック地域担当)。

IDEプロジェクトは如何にして発足したのか

 野村「まずは、御所のIDEに関するプロジェクトの経緯をお教えいただけますか。」

 中村様「東京事務所でIDE委員会が発足したのが2015年です。2019年には『男性40%、女性40%、フレキシブル20%(女性、男性、もしくはノンバイナリー)』という割合を2025年までにあらゆる階層で達成するグローバルのゴールを設定しました。今2025年の達成に向けて、邁進しています。ID&E以外のグローバルレベルの委員会においても男女比のバランスをとっていく方針になっています。」

 野村「オフィスのリーダーには説明責任が存在するわけですね。」

 高田先生「そうですね。40:40:20をグローバルで設定しましたが、国ごとに様々な環境がありますので、何が何でも数字ありきではありません。しかし、目標を設定することによって、シニアリーダーたちのマインドセットの中で常にダイバーシティーが優先事項として捉えられるようになり、また説明責任を積極的に果たすようになっていったことがポイントでした。その意味で2019年にこの目標を打ち立てたインパクトは非常に大きかったです。」

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 野村「なるほど。責任を持つことによってファーム全体の意識が変わってくる、意思決定が進むわけですね。」

 高田先生「はい、弊所は元々、グローバルに展開する法律事務所の中でも多様性が特長だと思っています。しかし、明確な目標設定による意識を土台に、率直なディスカッションを積み重ねたことでリーダーシップの方向性が一致し、様々な戦略的な施策を打ち出すことができたという点で、このディスカッションが始まった前後で多様性に対する姿勢がさらに変わっていきました。ファームとして本気だというところが、所内の空気感を変えていったと認識しております。」

 野村「なるほど。こういった目標は所内に留めることもできた一方で、貴所は対外的に公表する覚悟を持ったわけですね。」 

中村様「そうですね、数値目標と期限目標を具体的に掲げたのは、弊事務所が初めてでした。これらの目標に全力でコミットするという意識の現れだと認識していただければと思います。」

 中村様「さらには、ノンバイナリーの目標を入れたというのも法律事務所としては初めてです。LGBTQのインクルージョンも大事にしておりますので、そこについてもコミットしていくというところです。」

 IDEと採用の変化

野村「貴所では、70期以降の弁護士の男女比がほぼ一対一になっておりますね。これは採用において多様な属性の方をアトラクトできていること、さらにその方をリテイン・プロモートできていることの証左かと思います。まずは採用についていかがでしょうか。」

 中村様「実は2019年のグローバル目標設定の前から、東京事務所の採用での男女比は、だいたい半々くらいになるように意識的に変えました。」

 野村「なるほど。このように採用を変えたことで、変化を感じることはございますか。例えば、所内に多様なロールモデルが存在し、かつ並行して様々な施策が実装されていることは、求職者としては非常に安心感があると思うのですが、いかがでしょうか。」

 井田先生「そうですね、例えばサマージョブで学生の方に来ていただく際に、事務所内に女性は多いですか、女性のキャリアや子育てとの両立はどうなっていますか、と質問をいただくことがあります。特に女性が子育てと両立して働ける雰囲気や、男性の育児休暇のような施策は、若い男性の方にも女性の方にも歓迎していただいており、響いていると感じています。」

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 野村「施策を始めてから数年が経過して、変化が目に見えるわけですね」

 IDEと事務所経営

 野村「弊社が、幾つもの名門の企業法務系法律事務所のコンサルティングをさせていただいて感じるのは、特に規模を重要視する事務所が着実に増えてきているということです。その中で、ある程度の規模が無いとIDE活動は厳しい、事務所のマネタイズの仕組みとして厳しいという考え方も一つには存在し得ます。一方で、様々な社会的要請が存在する中で、法律事務所の経営の在り方はこのような従来の枠組みを超えるような高度化、複雑化を遂げているかとも思います。高田先生は実際に経営者としてIDE施策を実施されていて、そのあたりの感覚はいかがでしょうか。」

 高田先生「まず複雑化する部分で言うと、お客様のニーズが多様化するというのが一番の変化をもたらす原因になるかと思います。考え方が非常に進んでいるお客様が多い点は、グローバルファームならではのポイントですね。我々内部での気づきもありますけれども、お客様自身が非常に先進的な取り組みをされていたり、あるいはお客様と協働の取組みをさせていただく際にもお互いに学びが多かったりと感じています。人的資本に関するサステナビリティの考え方でも刺激を受けます。IDEがお客様との対話の重要なインターフェースを成すのだと、ここ23年のお客様のリアクションを通じても感じております。」

 野村「なるほど。貴所が最先端のクライアントニーズを柔軟に受容なさっていることが、経営・組織の進化の根底にあるわけですね。そして重要な視点としては、貴所がIDEの理念を説明できて、かつ実装できていることが、クライアントとのコミュニケーションに影響し、さらにはオリジネーションにまでも影響がおよぶというわけですね。」

 高田先生「おっしゃる通りです。個別の案件、例えば我々のプロポーザルに対してダイバーシティーの評価が低かった、この視点がなかったという意見をいただけば、それは我々としても改善への気づきになるということもありますね。それはすなわち、個別の案件を超えて、法律事務所とお客様との関係性を築いていくことに繋がりますね。」

 野村「こういった施策の内部的な意義については、如何に捉えていらっしゃいますか? 」

 高田先生「そこでいうと、IDEが我々にとって根幹の価値であるという意見に対して、ステークホルダーがコミットしてくれるかどうかが本当に重要ですね。ESGSDGsIDEは、個別の誰かに任せて解決するものではなく、ステークホルダーの皆様によって進むと考えています。さらには、それが我々のビジネスに良いインパクトを与えていると実感できることも大事ですね。私個人としては、先ほど議論に出た2019年のターゲット設定や、その前後の様々な施策を通じて、特に子育て世代も、女性も、安心して仕事を継続できる環境が整備できていると思います。経営の観点からは、人財育成のための投資とも捉えることができ、女性が長く働ける環境があって、そのような先輩たちの活躍が若手にとって良いロールモデルとなる、このような人財育成のサイクルができることは、非常に重要なポイントだと思います。」

 野村「投資という捉え方ができるわけですね。事務所のサステナビリティに対する投資であって、みんなが積極的にコミットする雰囲気になってきたと。」

 高田先生「そうですね。若手アソシエイトの成長のための様々なトレーニングへの投資と感覚的には同じように、やはり我々の人材に対するコミットメントであるという感覚を、我々の事務所の中では持っています。私が事務所に入った20数年前とは違って、法律事務所は子育てをしながらでも当然仕事を続けていけるよね、という共通理解ができていることが非常に大きいですね。」

 細川先生「男性にとっても育児との両立が大事な要素だと私も強く感じております。優秀な人材に事務所に残ってもらう意味で、制度を築くことが大事ですし、それを見てパートナーも共に仕事をしてくれる人が残ってもらえていると、実感できるものですからね。」

 野村「一つのモデルですね、これは。」

 高田先生「少し話は戻りますが、野村さんがおっしゃったサイズとの関係で、我々のような規模感になると、このリソースを支える上では、特に若い人たちの感覚が変わってきている中で、逆にIDE施策を打たない限りは規模が維持できない、規模のためにフレキシビリティが必要なのかなという感覚ですね。」

 野村「なるほど。フレキシビリティの欠如を契機として、事務所全体の案件と働き方が悪循環に入ってしまうと。要するに、ID&Eを重視しないと事務所の規模は維持できないし、事務所の規模が維持できないとID&Eは実行できない。そのような意味でID&Eと事務所の規模は両輪を成していると言えますね。」

 高田先生「そう思いますね、今後は。」

 野村「いつからそのような感覚を抱いているのですか。」

 高田先生「過去10年で顕著だと思います。以前のように様々な仕事が多くあって弁護士の成長の糧になるという点だけでは、いい人材は確保できないのだろうな、と如実に感じ始めました。」

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