Books & Reports

書籍とリポートについて

「ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)インタビュー~グローバル・ロー・ファームは如何にID&Eに取り組むか~ 後編」

REPORTS 2023.04.14

ID&E施策のトリガーとは 

野村「IDEの実行体制の構築は、多くの法律事務所が悩む場所かと思います。どこから手をつけるべきか、何がトリガーなのか。」 

細川先生「共同代表パートナーの高田がグローバル及び東京のIDE委員会の共同代表であるのは大きいかと思います。グローバルでもコアメンバーであり、グローバルを通じて東京の施策を考えられるためです。そして、高田が中心になりつつ、他のメンバーはボランティアで、こちらの指名ではなく手を挙げて入ってもらう体制を取っています。女性のキャリア育成はIDEにおける大事なテーマのひとつですが、それ以外にも様々なテーマがあります。テーマ毎にサブコミッティーを設立し、各チームの中で関心が高くてリーダーシップのある方に主導してもらい、そこに興味のある人に参加してもらう体制をとっているため、意欲ある者が自発的に取り組んで考える環境になっています。」

 野村「ここの稼働はノンビラブルの換算でしょうか?」

 細川先生「ノンビラブルですね。あくまでビラブルとのバランスではありますが、ノンビラブルの貢献を通じて東京事務所内に留まらずグローバルネットワークの中で自分のプレゼンスを上げられるメリットがありますし、自分自身が働きやすい職場を整えるということがありますね。」

 野村「このような活動は、パートナーシップにおいても重要視されるのでしょうか?」

 細川先生「はい、各パートナーのビジネスプランの中にインクルージョンという項目も入っていますので、そこで取り組むこともパートナーの責任としてのインセンティブにも繋がってきます。」

 野村「なるほど。制度があり、インセンティブもあり、アソシエイトとしても繋がる。有機的に連動するように設計されているということですね。」

IMG_7755.JPG

中村様「そうですね。弊所にはIDE委員会の下に9つのサブコミッティーがあります。その一つであるベーカーバランスというチームは、子育てや介護と仕事の両立などをテーマに話し合うグループです。そちらでは、子育て世代の方から意見を収集して施策を進めています。一つにはお子さんを連れてオフィスに来て仕事ができる環境の整備、ほかにもベビーシッターのサポートや、父親のための育休制度の拡充などを行っています。」

 働き方の多様性とパートナーシップ

 細川先生「小林は育児と仕事の両立を実現しております。私たちはIDE施策の一つとして、女性だけでなく男性も含めて本当の意味で育児と仕事の両立ができる環境を作りたいと考えております。」

 小林先生「私は2018年にNon-Primary Caregiver Leaveという制度を利用し、男性の育児休暇を取得しました。その期間に育児に専念して、やってみなければ分からない大変さ、実際の苦労やこれから始められる方の不安をよく理解することになりました。それ以降は留学などを経て、第二子が誕生した際にも休暇を取得しましたが、子供が生まれる前と比べて自宅へのコミット度合いは大幅に増えたかと思っています。今も、朝起きて子供たちにご飯を食べさせて、幼稚園保育園に連れていってから仕事を始めるのが私のルーティーンです。リモートで勤務する体制も整っていますので、例えば自宅で家事育児をしながら夜に仕事をキャッチアップするようなフレキシブルな働き方もできており、そこは魅力であると思っています。」

IMG_7675_cut.JPG

 野村「両立ができているのですね。実際にビラブルではどれくらい稼働ができるものでしょうか。」

 小林先生「他のアソシエイトと比べても、ビラブルが少ないことはないと思います。」

 野村「それは皆様そういう傾向があるのでしょうか。」

 小林先生「個々人の裁量だと思っています。例えば自分のようにビラブルはあまり下げたくない働き方も一つの選択肢です。当然、家事などへのコミットは家庭によって違いますので、そこは個々人の選択かと思います。」

 野村「選択が可能な状況になっているのですね」

 小林先生「そうですね。様々な働き方の形ができている実感があります。」

 野村「事務所によってはビラブルが伸びない人は出世しにくいという話を耳にします。この点は如何にケアされているのでしょうか。」

 細川先生「プロフェッショナル・サポート・ロイヤー(PSL)を経て井田がパートナーに昇進しておりますので、その時々の状況に応じて多様な働き方を選択し、その後のプロモーションにもスムーズに移行可能な環境は整っていると思います。」

IMG_7740_cut (1).JPG

 井田先生「所内のサポート等をするようなPSLというポジションを、一人目の子供を産んだ際に二年間利用しました。その後留学を経てアソシエイトに戻りました。私の希望と事務所のニーズをうまくマッチさせてくれる、良い制度であると感じました。」

 野村「なるほど、ケアのための制度が存在するのですね。パートナーになってからもそのような選択ができるのでしょうか。」

 細川先生「そうですね。私はパートナーに昇進してから出産しまして、やはり以前のようにフルコミットはできない状況はありましたから、その時はパートタイムの制度を選択して執務した経緯があります。」

IMG_7846.JPG

 野村「多様な選択肢が存在し、運用もなされているのですね。」

 野村「続いてリテンション・プロモーションの部分に議論を進めさせていただきます。」

 中村様「パートナー候補の女性の方のプロモーションというところで、LIFTLeaders Investing For Tomorrow)とRISEプログラムを設けております。どちらもグローバルなスポンサーシップやメンターシップの取り組みで、優秀なシニア女性弁護士の知名度向上やキャリア形成を支援しています()。」

(※)これまで130人以上のパートナーがLIFTに参加し、80%以上がプログラム中または終了後にリーダーとしての役割を担うようになりました。RISEはミドルレベルの女性弁護士向けのプログラムで、今年、EMEAからアジア太平洋、アメリカ大陸に拡大され、175名以上の女性弁護士がプログラムを通じて知名度向上とキャリアガイダンスを得ています。

 細川先生「育児等を行っているとき、なかなか時間がないものですから、自然に情報を取り入れる機会が少なくなりがちです。そこをトレーニングや施策によって補充し、キャリアのステップアップのためのポイントを設けております。」

 野村「採用とリテンションという意味では、両軸でやらないとワークしないっていうことですよね。」

 細川先生「はい、そうですね。先に申し上げたジェンダーの数字も、各レベルで設定されておりますし、プロモーションも重視しております。」

 野村「今振り返ってみて、改善において、一番重要だったと感じる施策、効果的だったと思うことは何かお聞かせ頂けますか。」

 井田先生「様々ありますね。先ほどのトレーニングもそうですが、ロールモデルが東京にいない場合であっても海外オフィスからロールモデルを探せる点も重要ですね。」

 細川先生「ベーカーのグローバルのチームからIDEの中心的メンバーが東京に来て、東京事務所の幅広い人に対してIDEの重要性を繰り返し伝えたことによって、事務所としてIDEをサポートする結論に繋がったことも重要でした。それによって、現場において、18-21時のような子育てをする上で時間的融通が必要な時間帯には別のチームメンバーがサポートするといった環境が、自然に出来上がっていったのが大きいと思います。」

 IDE施策における障壁とそれを乗り越える鍵とは

 野村「貴所がIDEの取り組みを進めるにあたってぶつかった障壁とそれをどう乗り越えていったか、について教えていただけますか。女性弁護士比率が元々低いなど、日本特有の障壁もあったかと思います。」

 中村様「個人的な感想として、初めに40:40:20で女性をプロモーションするというメッセージを発信した際に、少なからず若い男性アソシエイトからも戸惑いの声があった印象があります。また、子育て世代を支援する際に、子育てをしていないグループに負担がいってしまうということに対して、子供を持たない選択をとらざるを得なかった方との間にどうしても小さいながらもハレーションが生まれてしまうという問題がありました。」

 野村「なるほど。施策を当初支持されなかった方にはどう納得して頂き、実行に繋げていったのでしょうか。」

 中村様「そうですね、トップダウンではなくて、ボトムアップを大事にすることが一番重要なポイントだと思います。シニアリーダーシップからのトップダウンで話を進めてしまうと現場レベルの細やかな対応についての情報が伝わらず、ハレーションを生んでしまうことがあるので、役職の上下に限らずIDEに関心がある方はIDE委員会に入ってもらい、毎月意見を交わし合う中で、色々なハレーションも収まってきた感覚があります。次第にみんなで環境を作っていこうという雰囲気が醸成されてきました。」

 中村様「基本的に弊所において、多様な人たちを受け入れ、その人らしさを発揮して活躍していただこうというインクルーシブな環境があるので、反対意見がある方はそれを共有して頂いて、その上で理解に繋げていくという文化が浸透していたことが大きかったと私は理解しています。」

 細川先生「色々な立場で色々な人間が正直に意見を出し合って、それで結論まで達しない場合もありますが、お互い話し合うことによって理解を得ていく事ができたと思います。IDE委員会のメンバーでなくとも、イベント等で違った意見を持つ方も積極的に自分の考えを共有してくださいます。そもそも、IDE委員会のメンバー間であってもいろんな立場や考えがあるわけです。」

 細川先生「例えば、ベーカーバランス(ID&E委員会内のサブコミッティーの一つで、子育てや介護と仕事のバランスについて主に議論するグループ)のパネルディスカッションでも、負担を受ける側への配慮が足りないのではないか、など様々な意見が出ました。異なる立場の意見を共有していただき、皆で話し合い考えを深めることで、透明性をもって施策を成立させることを目指しました。」

 野村「事務所として他人の意見に蓋をしない文化がコアに存在し、議論を通じて事務所全体でのサポート体制が生まれているわけですね。」

 中村様「はい、やはりIDEのメンバーだけで進めてしまうと偏りが出てしまうため、どなたにも開かれた議論の場を設け、反対の意見も述べてもらうことで、バランスを取るようにしています。また、必要に応じて施策を見直すことも行っています。皆でダイバーシティーの実現を目指す空気ができたのは、沢山議論の機会を設け、そこに皆が忙しい中時間を使い、腹を割って話したからこそだと思っています。」

 細川先生「女性施策だけを切り口としたら、やはり中でもハレーションがあると思うので、幅広くIDEとして、様々な観点から働きやすさを追求するのが肝だと思います。育児についても、元来育児の時間を大事にしたいのは、女性だけでなく男性の方でも同じ気持ちがあるので、性別問わず育休を可能にすることで、結果的に育児が女性だけの負担にならない文化につながるメリットも生じます。世代的な考えとして、今の若い方は育児参加に男女を問わないという方も多いと思います。」

 ベーカー&マッケンジー法律事務所のIDEの未来

 野村「最後に、ベーカー&マッケンジー法律事務所として、今後IDEについて成し遂げたい目標について教えてください。」

 中村様「日本のマーケットですと、ダイバーシティー=(イコール)女性活躍という視点で語られることが多いと思います。しかし、ベーカー&マッケンジー法律事務所では、ジェンダーという切り口においては、女性活躍と、LGBTQ+当事者の方々へのインクルージョンについても同時に取り込んでおります。また、人種や、多種多様バックグラウンドを持つ人々を受け入れるグローバルファームとしての取り組みも行っております。また、多様な働き方を支援するために、リモートワーク、長期休暇、フルタイム未満のアレンジメントも提供しています。所員の心身両面での健康をサポートする取り組みもダイバーシティー活動の一環に含まれますし、所員一人一人が安全で尊重され、包容力のある職場文化を促進するために、容認できない行為(セクシャル/その他のハラスメントやいじめを含む)にも、迅速かつ効果的に対処できるよう、懸念や苦情を上げるための明確な構造を定めており、企業行動規範においてもID&Eへの理解や取り込みが重要視されています。また、弊所のサプライヤーにもベーカー&マッケンジーの企業行動規範を読み、同規範の原則を遵守するよう求めています。キャリア促進の面では、クライアント企業様と協力したメンターシッププログラムも行っています。

このように我々のID&E活動は、弊所内だけにとどまらず、所外のネットワークにも活動の芽が広がりつつあります。すべてのことを一度に満足いく形で達成することは難しいかもしれませんが、より革新的なソリューションをお客様に提供するために、多様性に富んだ人材と、全ての所員が参加し受け容れられる包括的な環境を整えることを目標としています。」

<本件に関するお問合せ先>
企業法務革新基盤株式会社
03-6860-4689/営業時間:10:00~18:00
e-mail: contact@lawplatform.co.jp

<転職希望もしくはキャリア相談希望の方の登録方法>
以下のURLから登録をお願いいたします。
https://lawplatform.co.jp/agentsearch/form/

<最近の記事>
2023年五大法律事務所の新任パートナー就任に関する統計分析
https://lawplatform.co.jp/booksreports/2023/01/content_1/
2022年法律事務所女性比率ランキング presented by 企業法務革新基盤
https://lawplatform.co.jp/booksreports/2022/10/2022presented_by/

<弊社事業のご案内>
For Legal Profession
・エージェントサービス(弁護士・法務人材) 
・顧問型キャリアデザイン

https://lawplatform.co.jp/ourservice/legalprofession/#agentsearch
For Company and Law Firm
・エージェントサービス ・エグゼクティブサーチサービス ・コンサルティングサービス
・リーガルマーケットリサーチコンサルティング
https://lawplatform.co.jp/ourservice/forcompanylawfirm/