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「法務人材の転職及び弁護士の転職へのコロナ禍による影響続編Vol.2 三井物産株式会社法務部 総合開発室長 伊藤雅史氏のコメント前編」
企業法務革新基盤株式会社の代表取締役の野村でございます。弁護士・法務人材の方からご要望いただき、本年5月4日に『法務人材の転職及び弁護士の転職へのコロナ禍による影響』と題した記事を掲載したところ、大きな反響をいただきました。クライアントから送っていただきましたメール・DMの内容を拝見すると、興味深いご意見が多く含まれておりました。具体的には、記事に対してのご感想のみならず、ご自身のリーガルマーケットの見立てや今後の法律事務所/企業内法務の在り方といった非常に示唆に富むものでした。
各種SNS等ではコロナ禍とリーガルマーケットに関するさまざまな意見が発信されておりますが、現在のリーガルマーケットを牽引しているリーダーたちの発信を見ることが難しいのが実態です。一方で、今回のコロナ危機は、司法試験の延期実施が決断されるなどまさに未曽有の事態であり、企業法務人材・弁護士・司法修習生・司法試験受験生としては、キャリア戦略や法務部・法律事務所の在り方について再考を迫られていることと推察されます。このような状況下では、リーガルマーケットを牽引するリーダーたちがいかなる視点で現在のコロナ禍を捉え、いかなる未来を志向しているか知ることは、平時以上に重要であるといえましょう。
リーガルマーケットのリーダーたちのご意見を共有することは、将来におけるリーガルマーケットの発展に寄与するものと考えます。そこで、当職ではリーダーの方々との個人的DM・議論の一部を公開させて頂けないかと打診を致しましたところ、皆様からご快諾を賜りました。皆様におかれましては、心より御礼申し上げます。
今回のシリーズで連載させて頂きますのは、法律事務所・弁護士・法務管掌役員・企業内法務部の管理職の方からの忌憚のないご意見です。豪華メンバー10名以上が非公式かつ個人的見解として述べるからこそ見えるものがあります。公式のインタビュー記事では見えない世界がそこにはあります。弁護士・法務人材の方はもちろんのこと、企業内法務部を持つすべての経営者の方にとって示唆に富んだ内容であることでしょう。ご期待ください。
それでは、本日は、三井物産株式会社の法務部総合開発室室長 伊藤雅史氏のコメントを掲載させていただきます。なお、あくまで個人の見解であり、所属組織の公式見解ではございません。
「御社の記事を大変興味深く拝見させて頂きました。
今年の初めから緊急事態宣言後の現在に至るまでの時期は、企業側としては、年度の人員計画や予算を検討・確定させるタイミングであったためにもともと新規の求人活動がやや停滞する傾向にあったところ、今回のコロナ禍の影響で更にそのスピードがダウンしたことは否めません。
ただ、企業内における法務機能のニーズや法務人材のニーズが低減したわけではないので、あくまでも一過性の現象だと捉えています。
むしろ、コロナ禍を経験することで従来気付かなかった自社の脆弱性を改めて認識したことにより社内のあちこちでその強化策を講じる必要が出てきていること、また、ポストコロナにおいて既存のビジネス環境に様々な変化が生じることにより新たな商機が期待できること、などを考えると、攻めにおいても守りにおいても企業法務が果たすべき役割は以前よりも拡大する可能性があり、中長期的には企業法務人材のニーズは堅調に推移するのではないかと考えます。
また、記事によれば、コロナ禍の影響があったとしても弁護士事務所からの人材流出はそれほど多くは期待できないとのこと。当該マーケットから提供される優秀人材を狙っている企業側としては中々厳しい情報ではありますが、一方で、現在のコロナ禍の状況下で自己のキャリアプランを今一度見つめ直そうという弁護士の方々が増えてきているとのことですので、もしそうだとすれば、企業法務ならではの仕事の醍醐味や企業法務組織内での中長期のキャリアプランを明確に示すことができれば、我々企業側にも優秀弁護士人材を獲得するチャンスはあるのではないかと思った次第です。
奇しくも、現在、コロナ禍という未曽有の危機に直面して、各企業は自らの存在意義(社会にどのように貢献できるか)について自問自答しているところです。生業の原点に立ち返り、自社の個性と強みを再定義することが求められているわけですが、そうした工程を通じて整理された自社の魅力と、そこで働く企業法務人材の活躍の姿をマーケットに対して提示していきたいと考えています。」
(三井物産株式会社の法務部総合開発室室長 伊藤雅史)
(当職野村による解説)
三井物産株式会社の法務部は、本社採用の法務部員約100名、所属する弁護士数21名を擁する(2020年1月時点、弊社調べ)日本最大級のリーガルプロフェッショナル集団だ。人的資本を重視し、意義のある仕事を創造する「実現力」を持った人材を育成することで知られる。「人の三井」と言われ、「組織の三菱」と言われる三菱商事と対比される。法務部においても人材育成に熱心であり、法務部内の組織づくりにもその精神が現れている。法務部員の人材育成組織が法務部の中に存在していることは、その証左であり、他社にはない特色である。総合開発室がそれにあたる。当該室のトップがコメントをされている伊藤雅史氏だ。
三井物産の法務部と言えば、法務部始まって以来、地域割組織を採用してきたが、近年事業割組織に変更した。各国ごとの法律に特化した形のニーズよりもグローバルなビジネスが多くなっており、国を跨ぎ法律が関与することになることがさらに進んでいる。また、ビジネスモデルに強くコミットするために、事業分野に重心を寄せていくことに変更したと拝察する。
「今年の初めから緊急事態宣言後の現在に至るまでの時期」について、伊藤氏は、年度の人員計画や予算編成のタイミングとコロナの拡大のタイミングが一致したことで、選考スピードが落ちたことを指摘する。そのうえで、スピードの停滞と企業内の法務機能及び法務人材のニーズとを区別して思考すべきことを示している。コロナ禍によって、法務機能及び法務人材のニーズが減少すると結び付けて思考することは、複雑な現実を表しているものとは言えないということだ。当職完全に同意である。他社を見ても法務機能及び法務人材のニーズが減少しているとは思えず、今後本連載記事に登場する法務管掌役員等も同様の指摘をしている。
「一過性」の減少という指摘も興味深い。法務機能及び法務人材のニーズはコロナ禍を通して、さらに顕在化されるだろう。本来、法務機能は経営と密接不可分であり、両者が離れているという認識こそが本来の法務機能の在り方と乖離していたものと解する。
続きは、「法務人材の転職及び弁護士の転職へのコロナ禍による影響続編Vol.2 三井物産株式会社法務部 総合開発室長 伊藤雅史氏のコメント後編」となります。
https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/05/vol2_1/
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