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「法務人材の転職及び弁護士の転職へのコロナ禍による影響続編Vol.10 日比谷パーク法律事務所 代表パートナー 久保利英明氏のコメント 4/5」

REPORTS 2020.06.22

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https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/06/vol1015/

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https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/06/vol1025/

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https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/06/vol1035/

 久保利弁護士は、弁護士業そのものだけではなく、さまざまな活動をしている。否、久保利弁護士からすれば、弁護士業は多様な活動を含むということなのだろう。当職から見ると弁護士業以外にも多様な活動をしていると映るが、この発想自体が視野狭窄なのだろう。なぜ多様な活動をするのか。それは、久保利弁護士のいう社会正義の実現を目指すからこそではないかと拝察する。コーポレート・ガバナンス・フォーラムを立ち上げるなどして、日本企業のガバナンス改革の旗手として活動する。第三者委員会、社外取締役の拡充、1億円の私財を投じ支援した大宮ロースクールの教育、ロー未来の会の創設、そして、日本を真の民主国家にすべく11票同一価値を求めて11票実現国民会議を結成して衆参選挙の無効訴訟を提起し、最高裁大法廷で弁論し判決を得ている。全国紙に11票実現を訴える広告記事を1ページ出されたことを鮮明に記憶している。これらの活動の背景には、久保利弁護士の、人生を生き切る覚悟を感じざるを得ない。久保利弁護士と思想信条を異にする方や対決してきた方でも、そのことは認めざるを得ないのではないか。

 ここで、久保利弁護士の弁護士としての生き方の決め手となったスモン訴訟に触れておこう。

 スモン訴訟は、キノホルム剤(整腸剤)を服用した者が、全身のしびれ、痛み、視力障害等の被害(スモン)が生じたとして、昭和46年5月以降、 キノホルム剤を製造・販売した製薬会社(武田、チバガイギー、田辺)とこれを許可・承認した国を相手方として提起した損害賠償請求訴訟だ(厚生労働省HPより引用)。スモン訴訟の原告弁護団の1人であったのが、若き日の久保利弁護士だ。その当時の想いを久保利伝で詳細に記載されている。引用してみよう。

「訴訟で原告と被告双方が真実の究明にむけて訴訟テクニックを駆使し合うのは当然なのだが、このスモン訴訟での被告側の対応はあまりに卑劣に思えた。企業の組織防衛のために手段を選ばないという企業の意向には、企業側に立つ弁護士といえども抵抗すべきではなかったのか。こんな企業とこんな弁護士だから薬害を起こすのであり、薬品のために健康を蝕まれた患者に対する製薬会社としての誠意のかけらも見られなかった。
  
 この経験から、企業側に立つ弁護士になるにしても、その企業が社会から評価されるように内部から変えていくことを自分の一生の仕事にしようと決めた。スモン訴訟が、「人の行く裏に道あり」、誰も歩いたことがない道を歩くという、私のベンチャー精神に火をつけた。
 
 他人のやらないことをやることこそ私が生きた証である。大企業が正しい行動をとれば、この国は人々にとっても、もっと住みやすく、安全な国になるはずだ。この被告側弁護士たちは反面教師として、弁護士の生き方を私に教えてくれたのだ。」(ここまで引用)

 スモン訴訟で目の当たりにした光景は、今日の企業と国のガバナンスを説き続ける久保利弁護士につながる。そして、スモン訴訟で製薬会社の責任が認められ、薬事法改正を勝ち取った。

 久保利弁護士はガバナンスと内部統制についても久保利伝で自説を披露されている。

「プロフェッショナルの力のなさこそ、日本企業のガバナンスの弱さと経営者による不正行為が横行する原因」と指摘する。海外企業におけるジェネラルカウンセルには強大な権限が与えられているのは事実だ。「我が国の法務部長とは比較にならない強力な権限を持っている」のだ。

 では、いかにプロフェッショナルの力を高めるのか。そのためには、法務部や内部統制組織には多くの弁護士が必要だということにつながる。規模は力だ。久保利弁護士が主張してきた弁護士数の増員論を批判する論客は、概ね食えるか食えないかであるが、ガバナンスと内部統制の実効性を高め違法経営を抑止し、もって、日本企業の企業価値を守り高めようとする大局的視点があることを見逃してはならない。ガバナンスと内部統制を支える日本の弁護士はまだまだ不足している。であるならば、弁護士の活躍する場の伸び代はまだまだある。それは今後歴史が証明していくだろう。 

 さて、コメントに入ろう。
「顧客基盤のしっかりしている中堅以上の法律事務所は、景気変動にもかなり堪えられると思います。」と指摘される。202054日に掲載した法務人材の転職及び弁護士の転職へのコロナ禍による影響後編で「法律事務所は景気変動に強いのではないかという意見も多く聞かれました。」との記事に呼応して記載されたものと推察される。ここで、景気変動にも堪えられる法律事務所の要件を示されている。顧客基盤がしっかりしていること、中堅規模であること、の2点だ。この2つの要件が両者とも満たされるのであれば、大きく崩れることはないという見立てだ。当該2要件のうち、前者の要件つまり顧客基盤がしっかりしていること、がより重要だろう。中堅規模以上の法律事務所が景気変動に強いのも詰まるところ顧客基盤がしっかりしているからと解される。

 では、顧客基盤がしっかりしているとは、いかなる意味を持つのか。顧客基盤がしっかりしているという表現からまず想起されるのは、顧問契約数が十分にあり毎月固定収入が予測できることであろう。法律事務所の中には、顧問契約はあえて増やさずdeal中心に売上を立てていくモデルを採用している法律事務所も多くある。dealごとの請求金額が大きい法律事務所によく見られる。かかるモデルを採用する法律事務所からもコロナ禍を通して顧問契約の重要性を再認識する声も聞かれた。経営上、顧問契約数を増やせば良いというものでもなく、顧問契約とスポット案件のバランスが重要だ。扱うプラクティス、クライアントの規模、業界、組織構成、財務基盤等によって最適解は異なる。いずれにせよ、法律事務所にとって顧客基盤を盤石にすることが経営上の最重要課題であることに変わりない。弁護士1年目であっても、所属法律事務所は顧客基盤をいかに構築してきたのか、そして、現在いかなる顧客基盤であるのか、さらには、今後ボスはいかなるポートフォリオを考えているのかを折に触れ学び、推測し、自分事として思考することが重要だ。所属法律事務所の顧客基盤を批判するのは簡単であるが、自らゼロから構築しようと考えるとその難しさを認識するだろう。さらに、一旦構築できた顧客基盤を維持し続けることはさらに難しい。結果を出し続けなければならないからだ。そんな緊張感さえ楽しみ、受け身にならず、プロアクティブに大胆に経営する、そんなマインドを持ちたいところだ。法律事務所の経営者のみならず、いかなる経営者も常に感じる緊張感。金銭的に余裕ができたところで、緊張感は常に付き纏う。それが、日常に張りを与えてくれる。

次回、「法務人材の転職及び弁護士の転職へのコロナ禍による影響続編Vol.10 日比谷パーク法律事務所 代表パートナー 久保利英明氏のコメント 5/5」は明日掲載予定です。ご期待ください。

5/5は、以下URLからご覧ください。以下のリンクは6月23日夕刻以降有効となります。
https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/06/vol1055/

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