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「法務人材の転職及び弁護士の転職へのコロナ禍による影響続編Vol.10 日比谷パーク法律事務所 代表パートナー 久保利英明氏のコメント 5/5」

REPORTS 2020.06.23

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https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/06/vol1015/

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https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/06/vol1025/

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https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/06/vol1035/

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https://lawplatform.co.jp/booksreports/2020/06/vol1045/

「なんと言っても必要な資本が少ないし、家賃と人件費以外の、原材料とも言うべき変動費が少ないので、固定費さえまかなえれば、事務所の収益はそれほど下振れしません。」ここで、法律事務所の財務構造に触れられている。工場等を必要とする製造業が典型であるように、事業を運営するために大きな資本を必要とするビジネスは多い。それに対して、法律事務所には必要な資本は少ないと指摘される。そして、PLの観点から、固定費さえまかなえれば、変動費の少ない法律事務所は赤字になる可能性は低いと指摘されている。今後家賃等を削減していく方向で一定程度社会が動くと思われるなかで、法律事務所がオフィスのスリム化を進めると、さらに経営上のリスクは低下していく。もちろん継続的に売り上げを出し続けなければならないのは当然であるが。

 そう考えると、法律事務所経営においては、リスクを過度に意識して防衛的に考えるのではなく、継続的に顧客開拓をし、既存の顧客との関係をメンテナンスし、そして、新しいプラクティスを先回りして構築しマーケットに打ち込み、さらに、目指すヴィジョンに基づき組織構築する、という一連のプロセスを検証し仕組みとして実装していくことに注力することが重要であろう。すべてを一気に取り組むことはできないが、淡々と1つ1つタスクをつぶしていくことで機能性、生産性は高まる。複雑なことを考えるよりも、上記一連のプロセスを今一度検証することが小ぶりな法律事務所にとっては重要ではなかろうか。

 一方で、すでに規模が大きくなっている法律事務所は、また別の課題に直面する。当職は、複数の著名な企業法務系法律事務所の組織コンサルティング業務に従事しているが、組織上の課題が複雑化してしまう現象にも直面することがままある。今は、小ぶりな法律事務所も10年、20年経つと大規模化してくる法律事務所が出るだろうが、大規模化したときに何が課題となるかを意識し、早めに組織設計を考えておくことは重要な視点だろう。

「安定した顧問先を有し、紛争案件でも契約案件でも、売り上げ維持ができるかどうかが、ポイントです。」ここで久保利弁護士は、経営のポイントを示す。安定した顧問先の存在だ。安定した顧問先からの売上が維持できるかどうか、平時においても常に意識すべきことを示唆する。

 こう見ていくと、法律事務所は財務構造上強さを持つ。食えないという弁護士の話を週刊誌等は面白がって掲載したりするが、これほどリスクの低い職業も少ない。株式会社は、起業後どんどんと消えていく。不景気の時こそ、弁護士の活躍の場があるというプラクティスもある。コロナが来て、腕を鳴らしている弁護士もいるのだ。出番だと自覚し課題解決に取り組まれている。

「顧客基盤のしっかりしない若手と、寄せ集まりで顧客層を確立していない水ぶくれした法律事務所はコロナ禍で既存の顧客層を失うかもしれません。」厳しい指摘であるが、現実というのはより厳しい。久保利弁護士節が炸裂していると感じる一節だ。

 もっとも、ここでは、「かもしれません」と記載し、現実のさまざまな経営パターンを想定しつつ言葉を選択されているように読める。「水ぶくれ」という表現にアジテートされる方もいらっしゃるだろう。「水ぶくれ」か、真の「拡張」であったかは、各所が証明していくことになろう。そして、明暗が時間の経過とともに明らかになる。何も現在において定まっていることはない。リーガルの人材は、他の領域の方々と比較しても、能力が高くインテグリティーも高い方が多い。さらに大きな力を発揮し世の中をリードしていく役割を果たされるだろう。時代を彩ろうではないか。法律家の活躍を必要とする課題は山積みだ。

 次のコメントに移ろう。
「平時にも言えることですが、新規分野を開拓し、顧客獲得に注力している事務所はコロナだからと言って大ダメージを受けることはありません。」ここでは、危機に強い法律事務所の要件を改めて示している。「新規分野の開拓」と「顧客獲得」だ。

 後者は前述したので、前者を中心に触れることとする。「新規分野の開拓」と久保利弁護士がおっしゃると説得力が違う。なぜなら、「新規分野の開拓」の弁護士として一丁目一番地の弁護士だからだ。そのことを実績が如実に物語る。「新規分野の開拓」をするというのは勇気がいることだ。なぜなら、いわゆる「金のなる木」に投下する時間の一部を「金のなる木」になるか見通せないなかで投資することになるからだ。人は弱い。目の前に「金のなる木」があるとそこに安住しようとする。久保利弁護士は、なぜかかる挑戦を一貫して取り組めたのだろうか。久保利弁護士を特別視して、自己と切り離すことは楽だが、なぜかかる挑戦を続けることができたのかを、改めて読者の皆様には立ち止まって考えていただきたいと思う。本稿がその機会になれば幸いだ。成功の法則云々といったステレオタイプの記事を読むことより、よっぽど意義があると信じる。久保利弁護士の挑戦の人生の内面になにがあるのか、深く思考したい。当職の意見を書くことは不遜に過ぎるため、ここは皆様の感性に任せたいと思う。

 最後に。
 当該論考を書き進めるなかで、日本、特に日本企業が歩んできた法化の歴史を改めて振り返ることになった。その中で感じたことは、紛れもなく「弁護士久保利英明」は、戦後の日本企業の法化を推し進めてきた類稀な傑物であるということだ。「弁護士久保利英明」が歩んだ道は、後に続く弁護士の仕事、法務部の仕事を生み出していった。目の前の業務に取り組みながらも、大きく視点を上げて、俯瞰的にマーケットをデザインし直すことの意義を感じざるを得ない。2020年代に入り、日本のリーガルマーケットはさらに大きな変貌を遂げるだろう。

第十一回は、三浦法律事務所 三浦亮太弁護士からのコメントです。6月28日に掲載開始予定となります。ご期待ください。

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